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FUTURELIZED CITYSCAPE

都市はもっと面白くなる

現実世界とデジタル世界の融合。ミラーワールドやデジタルツインとも呼ばれるその世界が、都市単位で広がった形を「スマートシティー」と呼ぶ。本シリーズでは未来の都市空間に展開される生活体験を紐解く。

Last Updated:
September 2, 2021
Writer:
Takashi Fuke
Researcher:
Tomoaki Kuroko
Designer:
Mathilda
Share on TwitterShare on Facebook

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FUTURELIZED CITYSCAPE

都市はもっと面白くなる

現実世界とデジタル世界の融合。ミラーワールドやデジタルツインとも呼ばれるその世界が、都市単位で広がった形を「スマートシティー」と呼ぶ。本シリーズでは未来の都市空間に展開される生活体験を紐解く。

Last Updated:
September 2, 2021
Writer:
Takashi Fuke
Researcher:
Tomoaki Kuroko
Designer:
Mathilda

はじめに

本マガジンでは「スマートシティ」を特集しています。

都市ではあらゆる体験を目の当たりにすることができます。年齢・性別・人種・思想、さまざまに異なる人が日々出会い、私たちの社会を作り出しています。

そこには多くの人が住まい、生活を営んでいます。周りを見渡せば、スマートフォンを片手にしていたり、時には自転車に乗って出前をしていたりと、その時代を象徴する行動様式を知ることができます。本マガジンでは、こうした日々の生活体験や社会行動が、空間コンピューティングによってどのように変化していくのかを、未来の都市像に注目しながら考察していきます。

Chapter 1. 都市生活で広がる、新たなコミュニケーションの形

鏡越しの会話が流行る?世界中で広がる「ミラー・インタフェース」の未来

「魔法の鏡」の登場

Googleは5月18日、開発者会議「Google I/O」を開催しました。遠隔地同士のユーザーが、ミラー型ディスプレイ越しに、まるでその場にいるかのようなコミュニケーションを取れるデバイスを発表。立体感のある3D映像を映し出すための本デバイスは、「Project Starline」と呼ばれるプロジェクトの一環として開発が進んでいます。

在宅ワークが世界共通の生活様式として広まった現代、「Zoom」や「Skype」を筆頭に様々なリモートツールが活躍しています。

「Slack」のような非同期チャット形式、「Discord」みたいなリアルタイム音声通話に至るまで、市場に出回る多様なツールが仕事場で使われるようになりました。それでもなお、距離の隔たりによるコミュニケーションコストが減らない場面もあるでしょう。たとえば上司との距離感や言葉のトーン、感情の起伏をWebカメラ越し、チャット越しに伝え切るのは至難。こうした遠隔コミュニケーションならではの課題解決を目的としたのが、今回発表されたStarlineです。

導入ハードルの高さ

Starlineは未だに実験的なデバイス。ただ、このまま一般市場に投入していくと仮定すると、弱点ともなるのはデバイスの導入モチベーションと言えるかもしれません。

仮に市場投入となった場合、これほど大きなデバイスを、現在の単一ユースケースを楽しむだけの利用用途では、どの家庭にも普及するほどのコミュニケーションデバイスになるとは考えにくいでしょう。というのも、ディスプレイ前という場所としての制限を受け、かつ座りつながら対話する体験は、すでにWebカメラを活用したZoomやSkypeなどの体験で実装されているためです。

先述したように、リッチな3D表現でのコミュニケーションに体験として新規性を感じます。しかしそれは「Pain Killer - 課題解決」のアプローチではなく、「Vitamin - 価値増強」のアプリーチであって、「絶対にStarlineを選ばないといけない」といった理由に乏しいのです。それゆえ、体験としてすでに登場しているものに対して、ユーザーがデバイス配置の場所とコストを費やすと考えるのは難しい印象。

足りないのは利用価値やユースケース。そこで参考となるのが、フィットネス企業「Lululemon」に5億ドルで買収されたミラーデバイス「Mirror」。

「Mirror」が教えてくれること

Image Credit by Mirror

同デバイスは在宅フィットネス向けの端末で、値段は約1,500ドル。鏡越しに映される動画コンテンツを視聴しながら、トレーナーの身体の動きを実寸大で真似ることができるサービスを展開。コロナ禍でジムに直接行けない中、バーチャルでジムレッスン体験を再現できる点がウケています。

Mirrorは家庭用としてはそこそこ広いスペースを要しますが、それでも購入されているのは事実。買収前の2019年には、月間で100万ドル相当(約650台)の売り上げを達成していたとのこと。現在はその倍以上、1,500台ほどが月間の売り上げ台数となっていることが見込めます。他に、Softbankが1億ドルの出資をする「Tempo」や、1.1億ドルの調達をした「Tonal」など、ミラー型のフィットネスデバイスは市民権を得つつあります。この点、Starlineのデバイスサイズがユースケース課題を超える大きなイシューとなるとはここでは考えません。

さて、鏡型のフィットネス・デバイスは、健康不安やジムに物理的に通えない課題を解決するものとして急速に市場認知されています。もしStarlineが市場投入のアプローチとしてフィットネス市場を選定し、その上で遠隔コミュニケーションも踏まえた幅広いユースケースを提案できるのならば、強い存在感を市場で醸し出せるかもしれません。

なにより、Googleは空中でデバイス操作ができる「Project Soli」の開発を進めており、この機能を活用すれば鏡を直接触れたくない、スマホをわざわざ使ってミラー操作するといった面倒なUIの改善が可能。競合他社のUXのさらなるアップデートが見込めます。同社の技術を考えれば、十分に参入検討余地があるでしょう。

「ミラー・インタフェース」の未来

Image Credit by Blake Carpenter

Googleが3Dコミュニケーション表現に挑戦をしたのは、今回が初めてではありません。MRヘッドセット「Magicleap」上で展開される映像コミュニケーション「Google Meet」を活用すれば、その場にいるかのように相手ユーザーを映し出し、オンライン対話をすることが可能です。

このGoogle Meetは3Dではなく、2D映像を元にグラス上にユーザーを表示しています。目の前の障害物を検知し、2D映像と組み合わせることで奥行きを表現。たとえば自宅内で歩き回っているような映像表現が可能となっています。

本記事で紹介しているStarlineは、ディスプレイ前に座る必要があるため「制限的」なコミュニケーションとなっています。しかしそこで使われている技術は、MagicLeapのようにウェアラブル・グラスを装着していれば自由に動き回りながらコミュニケーションを取れる「非制限的」な体験にも応用できるでしょう。なかでも注目される技術の1つが、「ライトフィールドディスプレイ」です。

ライトフィールドディスプレイは、ヘッドマウントディスプレイなしで、立体視を楽しむことができるディスプレイを指します。具体的にはビジョンセンサーを使ってユーザの顔の位置を感知、リアルタイムレンダリング・アルゴリズムによって立体的な映像情報をリアルタイムで生成するものです。3Dディスプレイ技術では特定の視点からの眺めを再現していますが、ライトフィールドディスプレイを使えば、広い角度から見ても立体的に見える映像を再現します。

Googleは2019年4月にこのディスプレイ技術に繋がる特許を取得しています。もともとライトフィールドディスプレイ技術を開発していたスタートアップ「Lytro」の技術を買収して本特許の取得に至ったとも言われています。一度センサーが取得した画像・映像データの荒くて見えない箇所を読み込んで、綺麗に視認できるまで修正する技術が特許に組み込まれているとのこと。

ライトフィールドディスプレイの技術開発をGoogleが進めれば、Google Glassを筆頭とする自社グラス端末上に、鮮明に解析された相手ユーザー像を映し出すことが可能となるはず。Magic Leapに搭載されたGoogle Meetのように多少荒いデータではなく、Starlineのミラー上に映し出されるより高精度なものへと進化していくと考えられます。こうした未来を描くためには、グラス上で膨大なデータ分析を可能とするエッジコンピューティング技術と、ユーザーに受け入れられるグラスの軽量化およびUX改善が求められます。この点においては、まずは大型ミラー端末が市場に先行していくのを追いかける形で課題をキャッチアップしていくと考えています。

ユーザーを拘束しない、ストレスをかけない「非制限的」なコミュニケーションデバイスが市場で求められるのは必至。この未来を実現するために必要な技術開発は、Project Starlineで活用されているライトフィールドディスプレイを見る限り進んでいると思われます。また、グラス端末が普及する布石となるユースケースは、Starlineのようなミラー型端末が自宅に置かれ始めている状況から徐々に始まっていると推し量れます。私たちの生活は「ミラー志向」から「グラス志向」へと移り変わっていくことでしょう。

Chapter 2. テクノロジーが進化させる、都市居住

Story 1. 一歩先の都市生活、距離と時間を超える「アーバナイト」を支える技術

「非同期コミュニケーション」と「アーバナイト」

リモートワークが主流となった現代、私たちは地方に住みながら都市オフィスに仮想的に出社したり、日本に住みながらも、海外でビジネスを円滑に進めるスタイルが広がり始めました。

たとえば本社がサンフランシスコにある会社に、東京からZoomを通じてプロダクト開発に参加するようなケースも一般的になりつつあります。オンラインコミュニケーションツールが多数登場するにつれて、企業は人材拠点を世界に広げるようになりました。企業組織形態を分散化する流れが登場するようになりました。

とりわけオフィス環境に関して言えば、ZoomやSkypeのような「同期性」の強いコミュニケーションだけでなく、動画メッセージツール「Loom」のような録画動画を始めとした「非同期コミュニケーション」も広がりました。

Image Credit by Photoholgic

非同期コミュニケーションの最大のメリットは距離と時間を超えたコミュニケーションが可能となる点です。例え地球の裏側にいても、非同期性が高ければ時差を気にすることなく仕事のやり取りが可能となります。

これにより、本社と同じ時間帯に仕事をしていなくとも、そして本社へ実際に出向かなくても働ける「バーチャル出社」ができるようになりました。距離や時間を超えると物理世界における生活拠点の選択肢を広げられます。先述したような、サンフランシスコの企業に出社して1日の大半の時間を過ごしながら、生活は東京で送るようなスタイルに繋がる具合です。

名目上は都市部に身を置いて働きながらも、実態は全く別の場所に身体を置くような生活が徐々に浸透し始めてきたと感じます。大半の時間をとある都市での企業活動に費やしながら、生活基盤は別都市におく。テクノロジーによって生活基盤を仮想的に増やせるようになった現代、そして未来の都市生活者をここでは「アーバナイト(Urbanite)」と呼称します。

従来、どこか特定都市に拠点をおき、かつ実態上もその場所に身を置いていた時代から、2つ以上の都市に跨がった生活を行うスタイルが採用され始めました。たとえば東京にいながらも、世界有数のスタートアップ都市「サンフランシスコ」、金融都市「ニューヨーク」、新興都市である「ラゴス(ナイジェリア)」や「バンガロール(インド)」など、複数の都市の良さを汲み取った生活を送れるようになりました。起業家、資産家、そして新興国の事業者といった、自分が持つ様々な分人的な側面を、複数拠点を持つことで満足させることができます。ユーザーとしての私たち側からすると、柔軟に複数都市のメリットを享受でき、都市側からすると、世界各国にバーチャル的な市民を広げることでリーチを増やすことができるようになりつつあります。

XRが加速させる「アーバナイト」の存在拡張

Image Credit by Martin Adams

時代が進むにつれ、アーバナイトらは数と、その存在を各都市に拡張させるでしょう。この流れを加速度的に上げるのが前章で紹介した次世代・非同期コミュニケーションです。

フリーランスのように複数企業に勤め、多拠点に渡って頻繁に誰かとコミュニケーションを取る必要がある場合、特定の会議などに時間をロックアップされると柔軟性が失われてしまいます。それでは結局1つの都市に住んだ方が効率的、という結果が導き出されてしまいます。

かといってメールやSlack上のメッセージを確認するだけでは物足りなさを感じることもあるかと思います。そこで非同期性の価値を高める鍵となるのがXR。ユーザーの空間情報を、まるでその場にいるかのように相手に伝える技術は、従来の非同期コミュニケーション手法を飛躍的に進化させるでしょう。情報やノウハウなどを、時間を超えてそっくりそのまま共有・継承することを可能とするのがXRの強みです。

XRを基にしたコミュニケーションを語る上で、最も想像しやすいのがホログラムでしょう。最近ではホログラム志向のユースケースを徐々に見かけるようになりました。

2017年フランス大統領選、「Adrenaline Studio」が提供するホログラム・サービスによって、候補者の姿を複数の会場に映し出すパフォーマンスがなされました。

同スタジオが提供する仕組みは次のようなもの。まずレーザービームを反射鏡で2つのビームに分け、一方のビームを特殊なプレートに向けます。もう一方のビームは再現したい対象物や人物を照らした後、同じ特殊なプレートに反射。感光面(写真プレートやテレビカメラ)には、2本の光の干渉を利用して3D情報が記録されます。こうして単純に反射しているだけなのに錯覚を起こさせるとのこと。写真のような形や色を記録するだけでなく、体積情報を記録することで3Dの錯覚を起こさせます。

Adrenaline Studioの仕組みは大規模なものであり、全く同じものが私たちの日常に再現されるのはまだ遠い未来のことでしょうが、AR/MRグラス端末上で近い体験の再現は可能でしょう。より立体的に情報を伝えることができれば、同じ時間帯に合わせる必要がなくなり、「アーバナイトの存在拡張」に繋がると考えます。

ここまで説明してきたように、今や私たちがどの都市に拠点を置いているのかを定義しづらくなっています。都市生活は複数にまたがり、一都市に生活拠点が制限されない形になりつつあります。XR技術が進展、そして普及するにつれて今以上に非同期な働き方が増え、生活拠点の多様化に繋がる未来がやってくると考えられます。ゆくゆくは仕事だけでなく、遠隔から各都市に「居住」するかのような都市生活体験も実装されると考えます。ホログラムを活用した新たな都市生活者間のコミュニケーションも切り拓かれるでしょう。

Story 2. 「バーチャル・ナース」が24時間モニター、崩壊のない都市医療

医療崩壊

2021年になり、「医療崩壊」の4文字をしばしば聞くようになりました。

救急車を呼んだとしても受け入れ先が見つからなかったり、自宅やホテル療養を余儀無くされるケースが増えていると聞きます。実際、東京都のデータ(2021年8月11日時点)を見ると、入院数の3,667名と比較して、自宅もしくは宿泊療養をされている人数21161名と、6倍近くの開きが出ています。

医療崩壊を防ぐには、そもそも市中感染を防ぐために水際対策を徹底するなど、今から検討可能な解決アプローチも様々に考えられるでしょう。しかしここでは、少し未来の話として、今から準備を始めることで勤務医の方々を勤務医さんを中心とした関係者の負担を根本から減らす可能性がある「技術」に注目したいと思います。

日本は欧米と比べて医療現場のデジタル化が10年・20年も遅れていると言われているように、コロナ禍においてはまさにこのデジタル化の遅れのツケが回ってきたという側面も無視できません。だからこそ、年単位で今後も繰り返されるかもしれないパンデミックを見据え、医療関係者の負担を軽減する方法をテクノロジー視点でも検討する必要があります。

まずご紹介したいのは、1人の医師もしくは看護師によって、数十人・数百人程度の患者をリアルタイムで経過観察・状態観察が可能となる技術導入の事例です。こうした次世代の医療を確立する動きが、AI市場から起き始めています。

患者の多人数同時モニタリングを、AIで

Image Credit by KangarooHealth

従来、1人の看護師が付きっきりで診られる患者数は限られていました。人力ベースでは数の限界があり、たとえば自宅療養中の患者の家を何十分・何時間と回りながら直接確認して、多大な時間コストを費やすなどのプロセスが発生してしまいます。

そこで登場したのが、手術後の容態管理をSaaSで行うサービス「KangarooHealth」でした。同社はAIを使って患者の術後管理の取り組みをサポートしています。

血圧計・体温計・体重計・スマートウォッチ上の歩数計など、さまざまなデバイスデータを分析。体調変化の兆しが数値から読み取れればAIが即時判断。遠隔で重傷度合いをラベリングする「トリアージ」を実施。処置が必要な患者に対してのみ、すぐさま医師や看護師が駆けつけてケアできるようになりました。

KangarooHealthは一連のサービスを「ChannelFlow」としてパッケージ化し、コロナ患者向けに活用することを発表しています。ChannelFlowを活用すれば、COVID-19の疑いのある人をリモート監視、専門機関でのケアが必要となる急変段階の兆しを検知、プロバイダーがタイムリーかつ安全にバーチャルトリアージを行うことを可能させます。不必要な救急外来の受診を減らし、接触感染のリスクから医療従事者を守ることができます。

これまでは1日の決まった時間に体温や体調を電話越しで聞いたり、マニュアルで患者管理が行われていました。これからはKangarooHealthのAIを活用することで、病状変化の事前予測をある程度可能となり、患者の見守り体制の大半の自動化を実現できます。病院で診察を受けたいといった需要の急増に耐えられる医療体制確立が、欧米では進んでいます。

このように欧米圏の医療体制は、患者の容態管理の仕組みを抜本から変える動きが出ています。たしかにコロナ病床を立てたりするなど一過性の対応もしていますが、たとえ数年・数十年後に現在のコロナと同じような事態になったとしても受け入れ体制崩壊を避けられる技術導入が進んでいます。今となっては一看護師が診られる患者数は、従来比の数十倍にもなりつつあります。

バーチャルナース「Molly」

Image Credit by Sense.ly

AIを活用することで患者を同時・多人数に受け入れられるようになる兆しが見えています。なかでも人口密集度が高い都市部の医療は、今後より柔軟性高いものになっていくかもしれません。

ただし、数値にはなかなか現れないメンタル疾患、定量的ではなく定性的な観点から対処が必要な疾患に弱いのが先述したKangarooHealthを始めとするAI大規模医療体制です。たとえばうつ病や、高齢者介護医療が挙げられます。

ケア医療に関しても人手不足とマニュアルワークが要求され、機械によるタスク対処に期待が寄せられる市場です。医療看護市場の「ラストマイル」であるケア領域にAIが参入できれば、「定量」と「定性」の両方のアプローチから看護が必要な患者を24時間体制診られる一大医療体制の確立が目指せます。

最後に紹介する「Sense.ly」は、メンタルケアや介護医療などに応用されるAIアバター看護サービスを提供しています。

Sense.lyは、ユーザーがスマートフォンを使って、1日1回または数日に1回、5分間の "チェックイン "を行い、看護師のアバターに自分の健康状態を伝えるというものです。文字入力の必要はありません。患者がチェックインで共有した内容は、医療従事者のみが閲覧できる医療記録にまとめられます。報告書には、患者が日常生活で使用しているさまざまな医療機器、ウェアラブル、その他のインターネット接続されたハードウェアからSenselyが取り込んだデータも含まれます。

インターフェースとして使われるのがAIアバター「Molly」。会話型AI「MindMeld」や、音声を通じた感情分析AI「Beyond Verbal」「Affectiva」などのサービスを統合させ、急な容態悪化に対応するだけでなく、患者の気分に応じた対応できるプラットフォーム実現を目指しています。

最大の特徴は、患者が体調を表すために日常的に使う特定フレーズを理解すること。各患者にとって容態の伝え方はさまざま。1つ1つの言い回しをディレクトリーに人力で入力していき、自然言語処理の精度を高めていると言います。

また、感情分析を通じてメンタルヘルスのカウンセリングを必要としている場合や、処方された薬やライフスタイルの変化による副作用で鬱や不安を感じている場合、医療従事者にアラートを飛ばすことができるとのこと。この点はデバイスから収集される数値データから疾患の事前予測を行うKangarooHealthには手の届かない領域です。

グラス時代のAI医療

Image Credit by Mufid Majnun

ここまで紹介してきた、AIを活用した「早期疾患リスク検出」「即時トリアージによる患者分類」「感情分析を通じた対話型ソリューション」は、近い将来1つのサービスとして私たちの生活を支える基盤となると感じています。

都市医療では高い効力を発揮する、「AIによる24時間同時看護体制」の確立を目指せるでしょう。本当に医療が必要な時、迅速に適切な医療を受けられる体制ができます。この点はコロナ禍で実際に私たちが直面している医療崩壊を教訓とする形で、加速度的に需要が高まる考えであると感じています。

すでに実績は出ており、Sense.lyはNHS(英国国民保険サービス)と提携。アプリ利用を通じて高額な医療サービスから低額なものへと適切に誘導できたことで、医療コストを二桁減らせたとの報告もあります。こういった取り組みから、国民皆保険が行き渡った日本でたびたび問題視される、繁忙期にもかかわらずふらっと立ち寄る「コンビニ患者」の現象改善に、AI都市医療が貢献する可能性が見えるはずです。

それでは次世代グラス端末が登場すると、大規模医療体制はどう進化するのか。たとえば次の3つが例として挙げられるでしょう。

  • より立体感のあるAIアバターとの対話
  • リッチな診察体験を自宅でも受けられる
  • リハビリのような共同作業までサービスの手が届く

今後グラス端末へとインタフェースが移れば、立体感のあるアバターが目の前に登場し、現実感のある看護体験を受けられると考えられます。また、現在スマートフォンの電話通話機能を使った診療サービスが浸透しつつありますが、こうした診察体験もリッチになると予想されます。小さな画面では伝えきれない関連情報(疾患を示した数値データなど)を一緒に眺めながら、さながらカウンセリングをその場で受けているかのような感覚で、ベットに座りながら診察を自宅で受けられるようになるかもしれません。上に貼ったYouTubeにあるように、まるで自宅が医務室になるような体験が提供されるようになるはずです。

何よりグラス端末の登場によって期待されるのが、先述したような「まるで同じ空間にいるかのように体験する共同作業」でしょう。小さなスクリーンによってコラボレーション体験が制限されてしまうスマートフォンサービスで、決定的に足りない点はここにあります。リアルタイムに遠隔ユーザーを、その場にいるかのように繋げる体験がグラス端末の特徴の1つ。

そこで、患者が掛けるグラスから送信されるPOV(一人称動画)を診ながら、術後のストレッチや整形外科の医師が行うようなリハビリ指導も、自宅で手軽に受けられるようになるかもしれません。ハンズフリー、かつカメラが目元に来ることで実現できる医療体験ともいえます。

AIによって患者を大人数、リアルタイムに同時観察。その上で、グラス端末による医療体験拡張。未来の医療は、1人の医師がより広範な領域をカバーできるようになっていると考えます。コロナ禍において顕著になった今回の課題に対しては、まずはできることから早急な対策が求められますが、こうした未来の医療についてもテクノロジー導入の検討を通じて探索を行い、1人でも多くの方に医療が行き届く体制が作られることを願います。

Story 3. 「Factory OS」とは?工場で家を生産する都市住宅の未来

米国では手頃な価格の住宅が不足し続けています。

同国では1,100万世帯を超える低所得世帯向けに、700万戸の住宅が不足しているというデータもあります。サンフランシスコで一家を住まわせるために必要な住宅建設費は80万ドルにも達しているとも言われています。

なかでも「エッセンシャル・ワーカー」に対する住宅供給不足は社会問題へと発展しつつあります。人口密度の高い都市部では、病院や学校を多数配置する必要がありますが、看護師や学校の先生に住宅が足りていません。これでは彼らに遠方から都市部へ足を運ぶ多大なコストを強いるか、家賃の高い狭い部屋に住まわせる必要が出てきてしまいます。

コロナ禍、リモートワークが推奨され、多少は中小規模都市へと移住する流れが発生していますが、依然として世界的な都市一極集中のトレンドは大きくは変わりません。教師と生徒、医療従事者と患者がマッチするのに多大なコストが掛かってしまう、「繋がるべき人が繋がれない」都市形態は、コミュニティ形成に影響を及ぼす重要な問題です。

変わる都市生活

Image Credit by MESON

現在、私たちが直面する問題と解決策は上図のように説明できます。図の内容を書き起こすと下のようにまとめられます。

  1. 都市住宅問題:都市部の住宅不足が深刻。特にエッセンシャル・ワーカーに対しての住宅がコミュニティ形成では必須
  2. 定額都市生活:月額サブスクリプション形式で部屋を貸し出したり、住宅の所有権を月額で買い取る形で、住宅購入の敷居を下げるモデルがトレンドに
  3. 建築3.0 : 一つ一つオーダーメイドに住宅を仕立てる「注文住宅」から始まり(建築1.0)、技術進歩により間取りを含めた規格がある程度決まっている「量産住宅」が立ち並ぶようになりました(建築2.0)。こうした量産住宅の考えにOSの考えを用いて、オペレーションと生産拡張性をもたらす「建築3.0」が登場
  4. 拡張建築工法:XR技術を活用することで、住宅生産体制を支援する

2つ目以降をそれぞれ説明してきます。

Image Credit by Wiktor Karkocha

最初に都市住宅問題を比較的短期の視点で解決する「定額都市生活」に関して説明します。「定額都市生活」は大きく「部屋の賃貸」と「住宅購入」の2つに分野が分かれます。

昨今、最低でも半年、もしくは1年以上の賃貸契約を結ぶ従来のやり方ではなく、月額単位で支払い・いつでも住める生活スタイルが普及しつつあります。なかでも独り身の人に対して、月額サブスクリプション形式で部屋を貸し出す事業モデルが北米を中心に一般的になっています。賃貸契約の縛りで移住ができない、転職ができないといった課題を抱えないように、いつでも入居と退居ができるようなスイッチコストの低い生活の需要が高まっています。

空き部屋率の高い新築マンションの空き部屋を中心に貸し出す「WhyHotel」や、ホテルに継続居住できる「Anyplace」に至るまで、さまざまなプレイヤーが登場しています。部屋のクオリティも高く、柔軟な料金体系を提供、空室改善を図りながら都市部の居住スペース不足を解決しています。

他方、家族丸ごと都市部に住むとなるとなった場合、「部屋の賃貸」ではなく「住宅購入」のサービスに対する需要が高まります。ただ、冒頭で説明したように住宅価格は高騰し、中所得者層であってもそう手を出せるものではありません。ローンを組もうにも、金融機関はそう首を縦に振りません。

そこで登場したのが「住宅共同所有」をコンセプトにしたサービスです。たとえば「WayHome」が挙げられます。

WayHomeは都市部に住む人向けに住宅購入支援サービスを提供。都市部に世帯単位で住むには、月間数千ドル以上の家賃を費やす必要があります。中流階級の世帯が毎月の出費を支払いながら、マイホーム資金を貯金するのは難しいです。

一方、数年・数十年に渡って狭い部屋に世帯で住むのは最適解ではないと感じる人が多くいます。このジレンマを解決するため、WayHomeは住宅購入のための頭金のうち95%を支援。現時点で貯金のあまりない人が、いち早く夢のマイホームへ移住できる手助けをしています。

住宅はWayHomeと折半して共同所有する形になります。居住者は毎月定額の家賃をWayHome側に支払い続けることでマイホームに住み続けることができます。

もし毎月の支払いが厄介で、自分のものにしたいと考えたならば、家賃に加えてWayHomeが所有する住宅所有権(住宅購入時の肩代わり負担割合 = 最大95%)を毎月買い取る必要があります。100%になるまで買い取り続けると、そのまま自分の家になる仕組みになっており、都市部の住宅購入のハードルをかなり下げることで事業価値としています。

さて、「部屋の賃貸」と「住宅購入」のいずれの場合においても、そもそもの住宅販売価格が安ければ、利用者のコストも減ります。月額サブスクリプション家賃や、住宅購入代金は下がります。販売価格を下げるには、建設コスト(原価)をステークホルダー全員にメリットのある形で下げることが有効です。

都市問題に関するあらゆる不動産サービスに、「住宅生産コスト」がボトルネックとして関与しています。この生産体制にイノベーションを与えているのが、次に紹介する建築企業「Factory OS」であり、彼らの生産手法に、今後XRが深く関わってくると考えられます。

工場で家を製造する「Factory OS」が示す建築3.0の姿

Image Credit by Factory OS

住宅建築に徹底的なモジュール化を導入し、工場内でレゴのように積み上げ、建築していく手法を採用するのが「Factory OS」。GoogleとFacebookは、住宅価格が全米随一に高騰するシリコンバレーエリアの住宅事情問題を解決すべく、同社に投資をしています。

Factory OSによって開発された住宅の建築コストは、従来比で20-40%ほど削減できるといいます。昨今のSaaS化のトレンドを住宅建築市場に巧みに応用したと言えるでしょう。同じ取り組みをするプレイヤーとして、「Blu Homes」、「Blockable」、「Connect Homes」が挙げられます。

モジュール建築方式を採用すれば、コストを下げるだけでなく、現場での組み立てが容易になるため、近隣への影響を抑えながら迅速に工事を完遂できるメリットもあります。これにより、建築期間を35〜40%短縮することも可能となりました。

2021年時点で2億ドル相当の住宅建築の受注を受けている状態で、すでに開発が追いついていないほど。これまで建築業界へ従事して来なかった人も、賃金を倍増させ、かつ安全に建築に携われる環境を実現したのがFactory OSの真価と言えます。建築プロセスを再現できる工場を拡張すれば、どこでも生産体制を確立できるため、効率的に拠点拡大を目指せます。

事前に工場で住宅を建築し、現場で組み立てる手法は、シンガポールでも積極的に採用されている建築手法です。Factory OSを代表とする、こうしたPPVC事業者が台頭することで、前章で紹介したような私たちの定額都市生活もコスト面において格段に楽になると考えられます。特に手頃な住宅を求める都市エッセンシャル・ワーカーの拠り所の提供にも繋がるでしょう。

先述したように、従来の注文住宅の時代を「建築1.0」だとし、その後より効率化されて量産住宅によって家が立ち並ぶ時代を「建築2.0」だとすると、テクノロジー・ドリブンで各地に工場を設け、量産住宅の建築ハブを無数に作れるようになった現代を「建築3.0」のフェーズにいると言えるでしょう。

「拡張建築工法」へ

Image Credit by Henry & Co.

Factory OSの工場では、モジュール建築するのに要する日数は14日間。その後、すぐに現場に出荷され、組み立てれば住宅が完成されてしまいます。同社の建築現場は、徹底的に効率化が求められていることが容易に想像がつきます。

今後、ソフトウェアの考えに基づいたモジュール建築手法は世界的に広がっていくことが予想されます。東南アジアやアフリカのような人口が爆発的に伸びる新興国では需要は高いでしょう。ここで、こうした住宅建築のさらなるオペレーション効率化を目指すと考えた場合、2つのXR技術導入の可能性が浮かびます。

1つは現場でのグラス端末活用です。

たとえばMicrosoft Hololensを使えば、直接上司の指導を仰がずとも、モジュール建築の基本作業をより高速で修得できるはず。事実、工場内である程度特定されたオペレーションに沿って建築をするからこそ、Factory OSの従業員の約50%は自身で一定の建築手法を修得するとのこと。MRを活用した自主訓練のメリットを最大化できる環境があります。

もう1つのXR活用として「デジタルツイン」が挙げられます。

ある程度建築したモジュールを実際に建物が立つ現場で展開する際、気温・天気によって作業効率やプロセスが変化することが予想されます。こうした不測の事態に対応すべく、バーチャル上で現地当日の建築作業をシミュレーションした上で、滞りなく実施できるプロセスを明確化する「デジタルツイン」の活用も空間コンピューティングの将来ユースケースとして考えられます。建築プランニングの段階において、デジタルツインの技術が真価を発揮するはずです。実際、建築設計事務所「Zaha Hadid Architects」は、建築デザイナー向け高速リアルタイムワークフロー「Twinmotion」を活用し、より手軽に都市環境の再現が可能となりました。

Factory OSを筆頭とする住宅建築企業は、今後XRをフル活用することで、さらに飛躍的なスピード感と拡張力で世界中に安定したクオリティの住宅を安価に供給されると考えます。XRによって改善されたオペレーションによって住宅建築市場は下支えられ、私たちの定額都市生活も、金銭面を中心により快適なものとなると予測されます。

本記事のテーマとしてもなっている「拡張建築工法」の中身として次の2つが挙げられます:(1) 拡張現実デバイスによって、現場で働く人たちのオペレーションが最適化される (2) デジタルツインを通じて工場で建築される住宅が実際の工事現場でも事前に擬似的に建てられる拡張性。

建築の概念はXRによって文字通り拡張され、未来の都市生活はXRによってレバレッジされた住宅が立ち並ぶことでしょう。都市社会を下支えする技術としてXRにより注目が集まる時代が到来しています。

Chapter 3. エンタメ化する都市生活(仮)

※ 今後ストーリー記事が追加されていきます。

Chapter 4. 検索される都市コンテンツ(仮)

※ 今後ストーリー記事が追加されていきます。

Chapter 5. NFTと都市(仮)

※ 今後ストーリー記事が追加されていきます。