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車内をVRテーマパークに、「Holoride」が描く参加型都市像

Last Updated:
Aug 4, 2021

車内VRエンタメ企業「Holoride」、NFTをプラットフォーム実装へ

ドイツの自動車企業「Audi」のスピンオフ企業で、車内XRエンタメサービスを開発する「Holoride」が、2022年の本格サービス・ローンチに向けてブロックチェーンおよびNFTを導入すると報道されました。ちなみに同社は4月に1,200万ドルを調達しています。

HolorideはVRヘッドセットを装着して楽しむ車内エンタメプラットフォームを提供。移動中の車から見える景色や速度と連動する形で楽しめる移動式のVRエンタメコンテンツを楽しめます。

自動車の現在地とVRコンテンツがリアルタイムに反映されている形でバーチャル風景が移り変わっていきます。イベントカメラとレーザースキャナーを組み合わせたセンサーを自動車のフロントガラスとヘッドランプに組み込み、物体の距離、方向、速度を計算しているとのことです。

コンテンツ開発者は、Holorideが提供するプラットフォームを通じてVRコンテンツをエンドユーザーに展開できます。巨大なプラットフォーム事業者として成長し、最終的にはあらゆるステークホルダーが関わるエコシステム構築を目指すのがHolorideです。今回報道されたブロックチェーンとNFTは、こうしたプラットフォームおよびエコシステム化を強く推進するための戦略的な動きと見受けられます。

「Elrond」とは?

Image Credit by fabio

今回、Holorideが採用したのはバイナンスチェーンをベースにした仮想通貨「Elrond」。一般的にNFTに採用されるブロックチェーンはEthereumをベースとした規格「ERC20」「ERC721」ですが、Elrondは既存ブロックチェーンの弱点を補強することを目的に、Binance Chainをベースとした「BEP2」が活用されています。

従来、Ethereumベースの仮想通貨は、スマートコントラクトや取引データ送信をするための計算を行う際にマイニング業者に支払う「ガスフィー」が需要の高まりと同時に著しく高額になってしまう「スケーラビリティの問題」を抱えていました。そこでElrondは「Adaptive State Sharding」と呼ばれる仕組みを導入。

検証ノード単位を細分化し、並行処理して計算処理できるようにして負荷分散を成功させるコンセプトがAdaptive State Shardingです。通常のシャーディングとは違い、取引処理を効率よくできるように、随時状況を分析しながらシャードを調整する高度な技術で成り立っています。より柔軟性高く処理ができ、ユーザーにとっても使い勝手の良い高速で、ガスフィーのあまりかからないブロックチェーンがElrondです。

Elrondを活用したNFTを自社プラットフォーム上で運用させたいと考えるHoloride。NFTとは所有証明ができるデジタルデータを指します。ブロックチェーンを活用することで、市場参加者のコンセンサス(検証承認)が入り、デジタルデータのコピーをほぼ不可能にさせたのがNFTです。

NFTを導入することで、特定のデジタルデータが唯一無二なモノであることを証明できるようになりました。唯一性を持つからこそ、デジタル作品として価値を生み出すことができるようになりました。たとえば自分が所有するデジタルアート作品をNFT化すれば、そのデータ所有者を明確にして、コピーではなく本物であるという価値を市場に証明できるようになります。プレミア価値のある作品であれば、高額な評価がつき、売買することもできます。

ユーザー参加型都市像

Image Credit by Andre Benz

HolorideはElrondを活用して、車から見える「全てのコンテンツ」をNFT化する狙いがあると考えられます。

ここで言う「全てのコンテンツ」には、物理アセットとデジタルアセットの両方が含まれます。リアルとデジタル、その両方をHolorideのプラットフォーム上にNFTとして登録しておくことで、ユーザー同士のコンテンツ売買プラットフォーム化へと舵を切ることができるでしょう。

たとえば渋谷のとある商業施設と、その周辺に配置されたバーチャル・キャラクターの両方をNFT化して、Holorideのプラットフォーム上に置いておきます。ユーザーはHolorideのVRコンテンツを通じて、キャラクターが生き生きと該当施設周辺で動いている姿を確認でき、かつ気に入ればNFT作品として購入できるといった体験が可能となります。売買が発生すると、キャラクターに紐付いた施設にマージンが振り込まれる、リアルとデジタルが連動した仕組みも考えられます。

また、スマートシティにおける移動体験として「NFTナビ」も誕生するかもしれません。通勤時間の道路が混雑している時、空いている道を選ぶインセンティブを与え、都市環境の改善を自然と促す手法として、Holorideの活用が考えられます。

比較的空いている道をHolorideがナビ。道中でVRコンテンツを楽しみながら、ナビゲーションを最後まで辿ると、移動データに紐付いた形でNFTのキャラクターや報酬が提供される新しいナビゲーション・エンタメの形が考えられるでしょう。Holorideを通して見える都市を舞台に、ユーザーが都市と接点を持てる新たなコミュニケーションが生まれる具合です。

効率的に計算処理されたNFTコンテンツが現実とリンクされたデジタル世界に登場し、ユーザー参加型の都市となる姿は、まさにスマートシティに繋がる世界観です。車内エンタメとして閉じないコンセプトはMetaverseにも繋がる思想でしょう。私たちの移動体験は、こうしたブロックチェーンを基にした都市参加型の方向へと変わっていくかもしれませんし、それを念頭とした都市設計を行うべきかもしれません。

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